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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ロボサムライ■第五章機械城壱

■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
■第五章 機械城

   (1)
 大阪湾の空母ライオンの会場のあたりが急に騒がしくなった。
「剣闘士の試合をただちに止められい」
 鑑橋本部からのアナウンスが会場に響きわたる。
「どうした、なにごとだ」
 剣闘士たちも尋ね合う。
「会場におられる皆様方、速やかに退場口より退場されたい」
 空母上の観客たちもざわめきあう。大阪港の荷物置き場あたりに、火の手が上がっていた。都市連合の装甲車が出動して行く。
「どうやら反乱が起こったようだな」
 主水の隣にいるロボットが、つぶやいていた。
「一体、誰の反乱なんだ」
 主水は尋ねていた。
「お主、何も知らぬようだのう」
 主水の顔を不審げにみる。
「すまぬ、東日本の出身なのだ」
「ほほう、知らぬのも無理はない。教えてやろう。ロボット奴隷の反乱じゃ。東日本のとは異なり、西日本ではすべてロボットは誰かの所有物じゃからのう」
 健闘士のたまり場でも争いが始まっている。二派にわかれて、ロボット独立派とロボット奴隷派が、争いを始めてようとしている。
「主水殿、どちら側の味方に付かれるのか」「いわずと知れたこと。反乱軍にお味方申す」 司令室で水野が手を後ろに組み、歩き回っている。
「うむ、反乱ロボットめらが」
 怒り狂う斎藤、水野の日本側主催者。冷ややかな眼で見ているのが、ロセンデール卿である。
「卿、お味方くださらぬのか」
 秀吉顔の斎藤が尋ねた。それに対して、
「日本ロボットの反乱でしょう。我々神聖ゲルマン帝国には関わりなきこと。後で内政干渉と申されては痛し痒しですからね」
 ロセンデールは涼しい顔である。
「そこを何とか助けていただけぬか」
 信長顔の水野が困り果てて頼んだ。
「お願い申す」
 隣にいる斎藤も頭を下げる。
「わかりました。反乱軍を鎮圧してもよろしいのですが」
 ロセンデールは急に椅子からすっくと立ち上がる。
 ロセンデールは、その憂いをこめた眼差しを水野たちに向けて言葉をとぎらす。
「何かご所望のものがありますのでしょうや」水野はあわてて言う。
「反乱しておるロボットのボディを、我々の手にお譲りいただけますか」
おそろしいことを言ってのけた。
「そ、それは」
 水野は言い淀んだ。水野の心臓がギュッと締め上げられる。
 西日本都市連合にとって莫大な出費になる。しかも飛行甲板上にいるロボット剣闘士たちは、各市よりすぐりのものばかりだ。『このロボットたちが神聖ゲルマン帝国の手先となったら』と、ふと考える水野だった。ロボザムライの精鋭が西日本に刃向かったとしたら、恐ろしい事態となる。
「どうなさいましたか。早く決めまれぬと、ほら、反乱ロボットがもうそこまで迫っておりましょう」
 水野の心の動揺を読み取っているように、ロセンデールがせかす。
「卿、そう驚かせないでください」
 斎藤はびくついている。
「わかりました。とりあえず、静めてくだされ。反乱ロボットのボディは差し上げましょう。ほかに」
「とりあえず…、ねえ…、しかたがないですねえ」
 ロセンデールが不承不承答えた。
「水野様、大丈夫でございますか」
 斎藤がこわごわ水野の袖を引く。
「よし、神聖ゲルマン帝国のロボットの諸君、出番です。日本ロボットを身動きできぬようにしなさい」
 ロセンデールが命令した。
 神聖ゲルマン帝国の闘技者ロボットが格納庫から次々と出現し、反乱ロボットに戦いを挑む。
「ごらんなさい。我が軍の勇姿を…」
 ロセンデールが誇らしげに言う。が、反乱ロボット軍も負けてはいない。逆に神聖ゲルマン帝国ロボットの群れに切り込んできた。
「いかん、神聖ゲルマン帝国のロボットが負けておりますぞ」
 水野はうめく。
「あ、あの先頭におりますロボットは」
「斎藤、お見知りおきか」
 ロセンデールが尋ねる。
「いかにも」
 水野もそう頷く。
「どれどれ」
 ロセンデールが先頭にいるロボットを垣間見る。そのロボザムライは、乱戦の中にあって見事な動きをしている。

「あれは…」
 ロセンデールの顔色が変わった。ロセンデールの頭の中に過去の出来事が蘇って来る。「そのロボットに向かい、全員切りかかりなさい」
 めずらしく興奮し、命令ロセンデールだった。
「卿、いかがなされた」
 水野がびっくりして問う。
「あやつは、私の宿敵、早乙女主水です」
 水野はその名を叫び、絶句する。
「何! 早乙女主水」
「と、いうと、徳川公国の…」
 続く、斎藤も言葉をとめる。
「そうです、ええい、全員で切りかかりなさい。そやつだけは逃がしてはなりません」
 ロセンデールは柳眉を逆立てていた。
     ◆
「姐さん、どういたしやす。下はどうやら大混乱ですぜ」
 徳川空軍飛行船「高千穂」のコックピットで、鉄がマリアに叫んでいた。
「いいわ、助けに行くわ」
「それはなりません」
 佐久間空軍大尉が言った。手には二人に向けて銃が握られている。「何をしやがるんだ。佐久間さん」
「徳川公からの厳命なのです。我々の目的は早乙女殿とレイモン様を助け出すこと。下で起こっている騒乱は西日本都市連合で処理すべきことなのです。我々が参加すれば、西日本に対する内政干渉になり、徳川公、さらには東日本都市連合の立場が悪くなります。加えて徳川公廣さまが誘拐されました」
 佐久間は冷たく述べる。
「えっ」
「いったい、誰に」
「分かりません、恐らくロセンデールでしょう」
「そうでしょうね、あの汚い殿様を誘拐するなんて」
「鉄さん、汚いってどういう意味なのですか」「あれっ、姉さんも時々愚痴っているじゃありませんか、給料がすくないって」
 その答えにはマリアは答えぬ。
「誘拐されていわれれば、動けぬなあ。ああ腕がなるというのに。ともかく政治とは難しいものでござんすねえ、姐さん」
「鉄さん、腕が鳴るっていったって、あなた先日のタコの時みたいに震えているじゃありませんか」
「いやな、姐さんだねえ。いや、あっしは主水のだんなを助けようと思っていっているんですぜえ。じゃ何ですか、姐さんは主水のだんなのこと、気にならないんですかい」
「心配していますよ。でも、これくらいのことでやられてしまう主水ではありません。まあ、見ておいでなさい」
 佐久間が言葉を継いだ。
「お二人の話は付いたようですね。我々徳川空軍は、争いを避けるため、上空に停船します。お許しください。下界のことは、このテレビモニターでご覧ください。すきあらば、我々空軍の命にかえて、主水殿、レイモン様を助けにまいる所存です」
「そのお心持ちは有り難いことです、大尉」 マリアの潤いを帯びた目に見つめられ、佐久間大尉も顔を赤らめた。

    (2)
 ロセンデールは、もう下の動きが気になっていて、思わず安全な艦橋の特殊グラス展望台、別名金魚鉢から出て、下にいる自分のロボットたちに直接叫んでいた。
 見上げるロボットたち。一瞬、ロセンデールと早乙女主水の眼があった。
「これはロセンデール卿ではござらぬか」
 主水はにらみつける。ロセンデールも顔を真っ赤にし、どなり返す。
「主水、ここがあなたの墓場ですよ、覚悟しなさい」
 が、主水の手練の剣は、次々とロセンデールのロボット軍団をなますにして行く。残るはロボットのがらくた。
「ええい、秘密兵器を出しなさい」
 様子を見て怒り狂うロセンデールだ。
「でも、殿下、あれは、特別では」
 鷲顔クルトフが、注意をうながした。
「あやつ主水は生まれながらの宿敵です。できれば自分の手で戦いたいものです」
 ロセンデールが、クルトフや水野たちに言う。
「殿下、そ、それは、お止めください。この状態です。日本の反乱ロボットを収拾するだけでも一苦労いたしておるのですぞ」
 じゃがいも顔シュトルフが言った。
「まあ、よいでしょう。ではあやつ主水を、反乱ロボットの見せしめとしましょう」
「何ですと」クルトフが言う。
「いいですか、早乙女主水君、我々が代表してロボットを西日本都市連合に送り込みます。そのロボットに勝てば、お主ら反乱ロボットの意見に耳を傾けましょう」
 ロセンデールは、美しい顔ににやりと恐ろしい笑みを見せながら言う。
「いかぬ、罠じゃ。早乙女殿、止められるがよい」
 味方の反乱ロボットが言う。
「そうじゃ、名指しじゃ」
「が、拙者は武士でござる。相手からの挑戦を断ったとあっては、武名に響きまする」
 ロセンデールを見上げて、声を引き絞る。「しかとあいわかった。ロセンデール卿。私が勝てば話を聞くというのじゃな。皆様方、争いの手をしばし休められい。この早乙女主水が皆様にかわって、体制側の繰り出すロボットと一対一で戦い申す」
 あたりはシーンと静まり返る。
 一体どんなロボットが出現するのか。固唾を呑んで見守る。
 飛行機用甲板に、そいつがエレベーターとともに競り上がって来た。
 バイオコプター群がガチャガチャと音を立て始める。自らの機械を解体し始めた。それが中央で集まり、姿を取り始める。
 やがて、甲板上には巨人が立っていた。
 黄金の大仏ロボットである。
 大仏は座禅を組んでいたが、ゆっくりと立ち上がる。
 空母がぐらりと傾く。全長三十メートルであった。
「よろしいか。主水、大仏が相手です」
「相手に不足なし」
 と大音声で答えるが、主水はびびっていた。果たしてこれを倒すことができるのか。氾濫の様子はなにわテレビで流されている。
「むちゃやがな」
 これが大阪人、大多数の反応だった。
「卑怯だっせ、ロセンデールはん」
 主水の前に大仏が立っている。
 反乱ロボットの何人かが口にだしていた。 大きい。
 ともかく普通の相手ではない。主水も攻撃方法を考えあぐねていた。その図体にも拘わらず、所作の素早いのが気に掛かる。腕の一振りでもまともに受けてしまえば、恐らく主水の体はぺっちゃんこになってしまうだろう。主水の体機能は、むろんすべて麻痺してしまう。
 そうすれば、この話『ロボザムライ』も終わりになってしまう。
 ………??????????????

 そうならないようにどうすればよいか、主水も考えているのである。

 わしが、主人公のはずなのに……
 ………?????????????

「主水のおじさん、ムラマサだよ」
 反乱ロボットの中から、誰かが主水の刀ムラマサを投げて寄越した。主水は刀をハッシと受け取る。国境の検問所で取り上げられた刀である。
「おお…、これは…、どなたか知らぬが、ありがとうござる」
 ムラマサを掴み、いままでの剣闘士の刀と両刀を構える主水だった。
 鑑橋の上を見る。知恵が主水に手を振っていた。
「がんばりーに。主水のおじさん」
 どうしてこのムラマサを、と聞きたい主水だったが、今はそれどころではない。
 が、いかんせん、飛行甲板の上では限られている。地上で戦う必要があるだろう。一瞬、主水は大仏の方に向かい、走り続けた。
 すわ、戦いをすすめるかと皆注目する。が、主水は大仏の手に捕まる前に、足元を通り過ぎ、甲板の端まで来ていた。
「大仏、ここまでこい」
 そう大声で叫び、甲板から水面へ飛び降りた。大仏も、甲板から海上へ。大仏のジャンプの瞬間、流石の空母「ライオン」もぐらりと揺れた。大波が起こり、波の上の主水は、やがて港の上に投げ出されている。
「おじさん、早く、あの大仏を穴の中に落とし込むんだよ」
 主水に知恵が叫ぶ。が聞こえない。
『大仏に勝つには、穴じゃ、穴に連れて行くのじゃ』
 続いて、誰かが叫んでいた。この声はどうやら主水のみに聞こえるようである。心の中に直接届いているよであった。聞いたことのある声だった。
「穴ですと」
(やまの『あな』たのそらとうく…かな)
 空に向かって、主水はうめく。どういう意味なのか。
『ええい、じっれったい奴じゃの。お前が穴を掘っておったろうが。あの地盤の弱いところまで連れて行くのじゃ』
 その声にはあせりが見えていた。
「なるほど、わかり申した」
 主水は、大仏ロボットの攻撃をうまくかわし、走りに走った。マラソンではないが、丘を越え、山を越え、川を越えといいたいが、近畿新平野はフラットなので、主水はジグザクに走る。いままで、こんなに必死で走ったことはない。まるでマラソンランナーである。 空母の人々は思う。あいつら、一体どこまで。主水の奴、逃げたのかとか。なさけないなあとか、色々憶測を呼んでいた。
「ここだ」
 思わず叫ぶ主水だった。主水の足元が、違う。体の感覚が告げていた。問題の地へやっとついた。一時間ばかり走っていただろうか。「ここを戦いの場所としよう」
 続いて疾走して来る大仏を待ち構える主水。大仏がその地に足をつけた瞬間、地面が割れ、大仏と主水は体ごと地中へ。大暗渠である。
 ロセンデールたちは、二人のロボットを追って映像を送って来る監視ヘリを送っていた。
「いかん、化野まで連れていかれた」
 空母の上で叫ぶロセンデール。
 大仏は地下大空洞の中へ落ち込んでいく。続いて後を追って飛び込む主水。主水は何とか地面に立っていた。
「ここがお主と私の死リングぞ」
 大仏に叫ぶ主水である。
 空いた穴から光りがさしこむだけで後は真っ暗である。大仏はゆっくりと立ち上がる。足元はかなり窪んでいる。ゆっくり、暗渠の中を見渡し、ようやく主水を見つけた。
 にやりと笑ったようでもあった。法衣の裾さばきも良く、ぐいぐいと主水の方に近づいて来る。身長三十メートル。主水の体が小さくて、目に入らぬのではないかと思うくらいである。急に腰を屈めてくる。
 足が跳んで来た。踏みつぶそうというのか。主水は真上に剣を突き上げた。刀が何かの中に入っていく。
 大仏の足の裏に突き刺さっていた。一瞬の後、主水は足の先より逃げていた。
「ぐわっ、ぐわっ。????????」
 大袈裟な反応が大仏ロボットより返ってくる。無論タイ語でしゃべっているのであろう。おや思ったより、皮膚が柔らかいらしい。
 ハイチタンではないようだ。二本目の刀、愛刀ムラマサをもって、目の前にある足の上を、刀の刀頂を支点にして飛び越してみる。「ぐわっああ???????????」
 すっぱりと,刀ムラマサの通った後に傷が残っている。
 見かけ倒しだ。痛点があちこちにあるらしい。主水は右足から臑、大腿部と続けて飛び上がる。
 大仏はすばやく動く主水を見つけられないようだ。
 よろしい、それならと、背中から首もとへ。主水は動く。左右の手を背中にまわそうとする大仏ロボット。だが、
「かゆいところへ手は届かぬ」ではないが、肩のジョイント部分が正常に作動しない。手が回り切らないのだ。
 主水を探す左手のひらを再び刀で切り下ろしてみる。大仏の手のひらに生命線が切り刻まれている。
「大仏よ、お前の生命線が長くはないぞ」
 つぶやく主水。
 背中から首へ飛び上がった主水は、首の痛点に刀を差し入れる。
 よくよく考えれば、大仏は武器を持っていないのだ。大仏の武器はその体なのである。伸びる指にすばやく指紋を刀で刺される。大仏との闘いは、ほとんど主水のペースであった。
 これには当のロセンデールですら、気もつかなかったであろう。
「くそっ、タイの大仏はこんな不良品だったのですか。単なるでくの坊じゃないですか」 ロセンデールは歯がみする。
「いや、大仏ならぬおだぶつですよ」
 まわりにいたクルトフがなれぬシャレを言う。クルトフもやけくそである。
「クルトフ、君まで」
 ついに顔のうえで飛び上がった主水の剣ムラマサは、耳、鼻を切り落とした。
 とどめに両眼を突き刺す主水。まるで生身の体をもつ大仏はゆらゆらと揺れ、ドウと大地に倒れた。
 大仏の体は、どろりと、ゆっくり分解する。バイオコプターの機体となり、それもくずれ、バイオコプター飛行士の体がどさりと出てくる。
 主水は片手で死体を拝む。このタイの大仏は、小型バイオコプター二十機が合体してできていたのである。それゆえ、移動も簡単なのであった。
「大仏ロボットやぶったり」
 主水は雄叫びを上げた。

   (3)
 叫んだ主水はまわりの地下洞をみわたす。地平は見えず、あたりは霞が漂っている。ようく、見渡してみた。急に光が射したようであった。
 主水の周囲の壁には、石仏が数限りなく並んでいた。いやその石仏は、霞たなびく地平のはてまで続いているようであった。その数は数万、いや数百万もあるように思われた。「ここは…一体」
 主水は思わず独りごちた。
『化野(あだしの)じゃよ。よくこられたのう、主水よ』レイモンの声が響いていた。
 が、レイモンの姿は見えない。
「レイモン様、いずこにおわします」
『何をキョロキョロしておる、主水』レイモンの声が再び響く。
 主水は温度探査モードに、眼を切り替える。が、温感を感じるものは何もないのだ。
 無機体のみが、主水のまわり数キロを取り囲んでいる。レイモンの声だけが主水に届いているのだ。
『主水、わしがお前をたすけたのがわかったか』
「レイモンさまが、私を…」
『なにじゃ、わかっておらなんだか。あれほどたやすく大仏を倒せたと思うか』ありありと失望の色が声に現れていた。とすれば、先刻の空母での声も、レイモンに違いないと主水は思った。
「どのようにして、おたすけくださったのですか」
『この化野の力よ、化野の霊気により、大仏を生身にしたのじゃ』
「レイモン様」
 レイモンをともかく助けねばならないと考える主水である。
『主水、わしを探す前に、空母へ戻れ』
 レイモンは冷たく言い放つ。
「そう申されましても」
『命令じゃ、空母の方が急ぐのじゃ』
 大仏ロボットを倒した主水は、ジャンプしてその地下洞穴からはい出る。
 空母ライオンの方を、望遠ズームモードで見てみる。
 空母の艦橋から火の手が上がっていた。
 その時、走り寄ってくる影が二つあることに気付く。身構えるが
「主水のおじさん」
 知恵だった。
「先刻はどうも済まぬ。が、知恵、あの剣ムラマサはどうやって取り戻したのじゃ」
「それは、私から答えましょう」
 見知らぬ一人のロボットが続いて知恵のそばにきていた。白髪頭のにこやかな穏やかな顔たちをしている。
「こちらの御仁は…」
 主水は見知らぬロボットを見る。
「自己紹介いたします。私は西日本の奴隷ロボット解放の運動の指導者、山本一貫です。以後、お見知りおきを」
 深々と山本は頭を下げた。
「山本殿がこの刀を」
「はい、この知恵に命じ、やつらの武器倉庫から手に入れたものです」
「かたじけない、お礼を申し上げる。それで知恵は解放運動の……」
「そうでござる。それで早乙女様、我々お願いの儀がござる」
「はい、いかような」
「既にご覧のとおり西日本においては、我々ロボットは奴隷制の下、人間のくびきの下におかれております。我々は東日本のような自由な世界に生きとうございます。それゆえ、ロボット解放運動を進めております。このことわかっていただいて、我々にご協力を賜りたい」
「協力とは、一体どのような。小生とて、現在、剣闘士の身分。自由でありません」
「相談でござる。恐らく早乙女殿のお手前をみて、西日本都市連合はある提案をするでありましょう。それをお受けください」
「提案ですと…、そうとはいえ」
 そのとき、空母上でひとしきり大きな音が響いた。
「早乙女殿、空母上にお助け下されい。我々の仲間、力士ロボットがロセンデール側の聖騎士団相手に闘っておりますれば」
 一貫が頼んだ。
「聖騎士団を相手に…」
 その時、主水の頭の中にある考えがひらめいていた。
「一貫どの、早速参りましょう」

   (4)
 主水は愛剣ムラマサを片手に空母へとひた走る。反乱ロボットの中である一群を見ている。それは力士ロボットである。空母甲板のうえ、主水は大音声でいいきかす。
「力士ロボットの皆様、申し上げる。拙者、早乙女主水でござる。左舷側に集まっていたたけぬか」
 先刻の剣闘士試合で大樹山を屠った主水だから、力士ロボットはいうことを聴く。
「早乙女様、集まりましたぞ。後はいかように」
「しこを踏んで下されい」
「しこですと、聞き間違いでは…」
 力士たちは戸惑いを隠せない。
「さよう、しこです」
 念を押した。
「ご命令とあらば」
 首をかしげながら、力士ロボットが一斉に、しこを踏んだ。
 パランスが崩れている空母ライオンは、甲板上のロボット力士のしこの振動で、左舷側に重さが集中してくる。
 続いて、舷側まで走り、主水は海面に向かって叫んでいた。
「サイ魚法師、私だ。主水だ。お主たちが海中におるのはわかっておる。助けを所望じゃ」 ぐらぐらと振動する空母ライオンの横に、小型の潜水艦が浮上する。サイ魚法師の新しい潜水艦だった。
「やはりおったか、法師。同じロボット同志、ここは助けてくれぬか」
「おう、生きておったか、主水。申しで断る、と言いたいところだが、先日ロセンデールから追い出されたわしじゃ。それゆえ、意趣返しじゃ。主水、協力してやろう」
 サイ魚法師はつるりと顔をなで笑った。
「かたじけない、さすがはその名も高いサイ魚法師じゃ、有り難い」
「おい、主水、褒めるのもいいかげんにいたせ。早くしないとシュトルフの聖騎士団がやってこようぞ」
「わかった。右舷側からサイ魚の攻撃をお願いもうそう」
「あい、わかった。まっておれ。特製のサイ魚軍団攻撃を加えてやるわ」
 サイ魚法師の潜水艦の後には数万匹のサイ魚の群れがひしめいている。
「ライオン」の右舷に水しぶきがあがる。
 サイ魚の大群が魚雷のように空母を攻撃しはじめた。このサイ魚は鉄を食う魚である。 バイオ空母「ライオン」の船底は食い尽くされる。バイオ空母だけに、鑑底は柔らかいのだ。加えて力士ロボットの働きぶりである。ライオンは沈み始めた。
「ロセンデール卿、ロセンデール卿はどこだ」主水は叫んでいた。艦橋のラダーを駆け上がっていた。
「ロセンデール卿降りてこい。勝負じゃ」
 そのとき、急速に降下してくるバイオコプターが一機ある。
「いかん、逃げろ」
 主水は、反乱ロボットに向かい叫ぶ。
 何体かの力士ロボットが被弾し、数体倒れる。バイオコプターからの一連射が甲板上を縫った。
「これが私の挨拶状がわりです。主水、機械城で待っておりますぞ。ふっふっ」
 バイオコプターの窓から、ロセンデールの顔が浮かびあがって、にやりと笑った。


■ロボサムライ駆ける■
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